女極道会長は身代わり任侠と戀獄の享楽に耽る
作品情報
「――お前を愛してやれる時間がどれだけあっても足りねぇ」ヤクザの会長の一人娘で世間から隠されて育った櫻子。父親は彼女の「盾」とするため、少年を“隠し子”として引き取った。やがて少年・恭次郎は立派な極道に成長、櫻子と肌を重ねる関係になる。自分から望んだ関係ではあるが彼に負い目のある櫻子はその曖昧な関係から一歩引こうとするのに対し、恭次郎は一途にその恋情をぶつけ、どれほど愛し合おうとも足りないとばかりに夜ごと熱く抱きつぶす――くるおしい愛と罪に縛られた禁断のノワール・ラブストーリー。
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享楽に耽る
季節は夏の終わりだった。
東京都内、ハイクラスホテルの上層階にあるスイートルーム。
その客室の奥にあるメインベッドルームでは、まるで囁くように小さく喘ぐ女の体を背後から押し潰すように抱いている大柄な男がいた。
男の背中には飛び鳳凰と舞い上がる桜の花びらが極彩色で彫られている。その派手な意匠は張りのある筋肉で固く引き締まった臀部を過ぎ、太もも裏にまで続いていた。
「お前、またメシを抜いてるだろ」
キシキシとほんの僅かに軋むベッドの上には、性愛に興奮し首筋に青筋を立てている男からの攻めに喘ぎ声をかみ殺している女が一人。
快楽に曲線を描いてしなぐ女の体が薄くなったのではないか、と男は問いかけた。
「……抱き心地が、悪い?」
「そうじゃねえよ」
なあ櫻子、と男は密着していた体を起こして挿入していた自身を引き抜き、一度、離れる。
「心配されるほどじゃないわ」
櫻子、と呼ばれた女性はうつ伏せ寝からゆっくりと仰向けになって、乱れたブルーブラックのセミロングの髪を乱暴に掻き上げる。もう一度、と彼女の足を割り開いて挿入し直そうとする男に「私よりももっと若くて良い子、いくらでもいるのに」と口にする理由は簡単。
この行為が始まってからいくらか時間が経っているのに、まだ男は射精をしていない。体の関係を持つようになってから少しずつ確実に年齢を重ねている自分の体ではもうこの男を満足させられないのだろうな、と櫻子は思っていた。
最後にこの男に抱かれたのはいつだったか。
夕方、久しぶりに呼び出されたかと思えば、男はスイートルームを取りインルームディナーまで用意して自分を待っていた。
自分の体を求めセックスをするまでのお膳立てをしたのは、男のほうだった。
櫻子はまだ吐精をしていない男を見上げる。
「新しく入った子、可愛いわよ。優しく抱いてあげたら? 少しお小遣いでもあげればきっと今後の励みになるはずよ、恭次郎」
「お前な……“直営店”の新人を紋々背負ったヤクザにマワすなよ、いくらなんでも可哀想だろうが」
恭次郎と呼ばれた男は、ぐ、と割り開いた櫻子の足の間にまた自身の先端を挿し入れようとするが、どこか拒まれている気がしてならなかった。
「何が不満なんだ」
「……別に」
ふい、と横を向く彼女の、挿入しようとしている場所は、ローションがたっぷりと塗られているかのように十分すぎるくらい濡れている。スキン越しに隆起の先端で撫でて掬い上げると垂れるほど――だから、彼女も受け入れてくれていると思っていたのに、どうにも言葉と体の反応が相反している。
「俺はお前を抱きたかった」
その言葉と共にゆっくりと腰を進めると、にゅるりと抵抗なく入った。